自動ロスカットはFCMを代替できるのか――レバレッジ型ダイレクト・クリアリングの限界Can Auto-Liquidation Replace the FCM? The Limits of Leveraged Direct Clearing
クリアリング・ブローカーを介さず、取引参加者が清算機関へ直接参加するダイレクト・クリアリングは、リテール顧客だけを対象とした仕組みではありません。近年、米国で議論されているのは、最大損失額をあらかじめ差し入れる全額担保・事前拠出型の仕組みを、レバレッジ型のデリバティブへどこまで広げられるかという問題です。本稿では、全額担保・事前拠出型とレバレッジ型の違いを確認したうえで、自動ロスカットができることと、その外側に残る問題を整理します。 Direct clearing is not only for retail customers with fully-collateralized positions — US regulators are now weighing how far the same model can extend to leveraged derivatives, where the customer posts only initial margin. What auto-liquidation can substitute for has to be separated from what remains outside it, once leverage reintroduces the funding-gap problem that full prefunding had eliminated.
Direct clearing has never been retail-only; proprietary firms and corporates have long been clearing participants. The question in the United States is how far the fully collateralized, prefunded model extends to leveraged derivatives. The dividing line is whether the maximum loss is funded before the position opens, not whether the participant is retail.
Leverage restores the interval between a price move and the movement of cash, and auto-liquidation manages that interval by cutting positions once the collateral cushion falls below a preset level. FTX’s 2022 proposal for non-intermediated margin clearing assumed the same mechanism.
What auto-liquidation replaces is one FCM function: early intervention on a preset collateral threshold. Credit assessment, position limits, intraday liquidity, and knowledge of the customer’s wider portfolio remain outside auto-liquidation.
Auto-liquidation also assumes the closing order can be filled. When prices gap over a closed market or the order book thins, the loss can exceed the customer’s collateral. Whoever meets that shortfall first has to be named in advance: the direct participant, clearing house resources set aside for it, or another guarantor. The clearing house’s default management is a separate regime that takes over only if that party also fails.
Liquidation that is rational for one account can synchronize across many accounts on similar thresholds. The 2022 UK LDI crisis involved no account-level auto-liquidation of the kind discussed here. It did show margin calls and asset sales amplifying each other where leverage, homogeneous positions and thin liquidity coincided. Earlier and smaller reductions can also lower market impact.
Removing the FCM redistributes these functions to the direct participant, the clearing house, settlement banks, custodians and liquidity providers, and round-the-clock trading additionally requires their settlement and collateral hours to be synchronized. Whether leveraged direct clearing works turns on how explicitly that redistribution is set out.
クリアリング・ブローカーを介さず、取引参加者が清算機関へ直接参加するダイレクト・クリアリングは、リテール顧客だけを対象とした仕組みではありません。自己勘定取引会社や事業会社などが、自ら清算参加者となる例は以前から存在します。
近年、米国で議論されているのは、ダイレクト・クリアリングそのものの是非ではありません。最大損失額をあらかじめ差し入れる全額担保・事前拠出型の仕組みを、当初証拠金だけでより大きなポジションを持つ、レバレッジ型のデリバティブへどこまで広げられるかという問題です。
レバレッジ型では、市場価格が変動すると、当初証拠金を超える損失が生じる可能性があります。そのエクスポージャーを抑える手段として提案されているのが、口座を高い頻度で評価し、担保余力が一定水準を下回ったときにポジションを機械的に縮小する自動ロスカットです。
自動ロスカットは、FCMが担ってきた顧客リスク管理の一部を機械化できます。しかし、FCMの機能をすべて代替できるわけではありません。
本稿では、全額担保・事前拠出型とレバレッジ型の違いを確認したうえで、自動ロスカットができることと、その外側に残る問題を整理します。
1全額担保型とレバレッジ型は何が違うのか
最大損失が契約上限定され、その全額をポジション成立前に差し入れられる商品では、参加者の損失を事前に資金化できます。
たとえば、満期時の支払額が一定の範囲に収まるイベント契約であれば、参加者が失い得る最大額を取引開始前に計算できます。その全額を事前に差し入れておけば、市場価格が変動しても、原則として最大損失額を超える追加資金は必要ありません。
この仕組みでは、清算機関や仲介者が、顧客から後で資金を回収することを前提に、先に資金を差し出す必要性が小さくなります。
ここで仲介者を外しやすくなる理由は、リテール顧客のポジションが単純だからではありません。最大損失が限定され、その金額があらかじめ資金化されているからです。
したがって、直接清算が成立するかどうかを考える第一の軸は、参加者が個人か機関投資家かではありません。最大損失を事前に確定し、その全額を取引前に差し入れられるかどうかです。
これに対し、レバレッジ型のデリバティブでは、参加者は差し入れた当初証拠金よりも大きなポジションを保有します。
市場価格が不利な方向へ動けば、ポジションの損失が増え、追加証拠金が必要になります。顧客が必要な資金を直ちに差し入れられなければ、担保が不足した状態が生じます。
全額担保型では、最大損失が先に資金化されています。レバレッジ型では、市場価格が動いた後に、新たな資金需要が発生します。
つまり、レバレッジを導入すると、価格変動と資金移動の間にある「時間」の問題が戻ってきます。この時間差の中でエクスポージャーを拡大させないために、自動ロスカットが必要になります。
2自動ロスカットが代替できる機能
自動ロスカットは、顧客口座の担保価値とポジションを継続的に評価し、担保余力があらかじめ定めた水準を下回った場合に、ポジションを縮小または決済する仕組みです。
FTXが2022年に提案した非仲介型の証拠金清算モデルでも、高い頻度で口座を評価し、担保不足が拡大する前にポジションを自動的に削減することが想定されていました。
自動ロスカットが代替できるのは、FCMが担ってきた顧客リスク管理のうち、一定の担保基準に基づいて早期に介入する機能です。
顧客が実際に支払不能となるまで待たず、担保余力が低下した段階でエクスポージャーを減らす。人間が顧客ごとに判断しなくても、事前に定めたルールに従ってポジションを処理する。
この機能には、顧客に対する無担保エクスポージャーが拡大する時間を短くするという意味があります。
しかし、FCMが担っているのは、機械的なポジション削減だけではありません。
FCMは、顧客の信用力を審査し、顧客や商品に応じたポジション・リミットを設定します。担保を管理し、日中の流動性を提供し、顧客のポジションが他の資産や負債とどのように結びついているかを確認します。必要な場合には、顧客と協議しながら、ポジションを段階的に削減することもあります。
自動ロスカットが代替できるのは、このうち、あらかじめ設定した担保基準に従ってポジションを縮小する部分です。
市場流動性を作り出すことも、約定価格を保証することもできません。顧客に追加資金を提供することも、顧客のポートフォリオ全体の目的を理解することもできません。
自動ロスカットは、FCMを丸ごと代替する仕組みではありません。FCMが担ってきた信用管理の一部を、機械的なルールへ置き換えるものです。
3約定できなければ、担保を超える損失が残る
自動ロスカットは、担保不足が拡大する前に決済注文を出すことができます。
しかし、注文を出したことと、想定した価格でポジションを解消できたことは同じではありません。
市場が連続的に動き、十分な流動性があれば、損失が大きくなる前にポジションを縮小できます。一方、ストレス時には、価格が急激に変化し、注文板が薄くなり、想定した水準で約定できないことがあります。
市場が閉じている間に大きなニュースが発生すれば、次の取引価格が直前の価格から大きく離れることもあります。
このような価格ギャップがある以上、自動ロスカットを設定しても、損失が顧客の担保残高を超えないとは限りません。
自動ロスカットは、損失の拡大を抑えるための仕組みです。しかし、最終的な損失額を担保の範囲内に収めることを保証するものではありません。
担保を超える損失が残った場合には、まず、誰がその不足を清算機関に対して履行するのかを決めなければなりません。
直接参加者自身が負担するのか。清算機関が用意した専用の財務資源で処理するのか。別の保証主体を置くのか。
その主体も履行できなければ、初めて清算機関のデフォルト管理と損失負担ルールの問題になります。
清算機関のデフォルト管理では、一般に、ポートフォリオのヘッジ、他の参加者への移管、デフォルト・オークション、担保やデフォルト・ファンドによる損失吸収などが組み合わされます。
これらは、顧客の担保余力が低下した段階でポジションを処理する自動ロスカットとは、別の制度です。
自動ロスカットは、デフォルト管理を不要にする技術ではありません。デフォルトに至る前の介入を自動化する技術です。
この二つを混同すると、ロスカット後に残った損失を、最終的に誰が引き受けるのかという問題が見えなくなります。
4個別口座の安全と、市場全体の安定は一致しない
自動ロスカットは、個々の口座について見れば合理的です。
担保余力が低下した口座のポジションを早く縮小すれば、その口座から生じる損失の拡大を抑えられます。
しかし、多数の参加者が似たポジションを持ち、同じようなロスカット基準を設定している場合、個別口座にとって合理的な行動が、市場全体では同時売買を生む可能性があります。
価格が下落し、複数の口座が同時にロスカット水準へ到達する。機械的な売却が増え、その売却によって価格がさらに下落する。その結果、別の口座もロスカット水準へ達する。
この連鎖が発生すれば、自動ロスカットは市場変動を増幅する方向に働きます。
ただし、強制決済が常に市場を不安定にするとは限りません。より早い段階でポジションを小さく削減できれば、損失が拡大した後に大規模な処分を行うより、市場への影響を抑えられる可能性もあります。
問題は、自動ロスカットが安全か危険かという二択ではありません。個別口座の損失を早期に抑えることと、多数の口座による同時決済が市場へ与える影響を、どのように両立させるかです。
さらに、清算対象のポジションは、必ずしも単独で保有されているわけではありません。
金利スワップは、債券や負債の金利リスクをヘッジするために使われます。先物は、現物資産の価格変動を抑えるために使われることがあります。為替デリバティブは、将来の外貨キャッシュフローを固定するために利用されます。
このようなポジションの一部だけを機械的に決済すると、ポートフォリオ全体のリスク構造が変わります。ポジションを失った参加者は、別の商品や市場で新たなヘッジ取引を行わなければならない場合があります。
したがって、強制決済の影響は、ロスカットが行われた市場だけにとどまりません。再ヘッジや原資産の売買を通じて、他の市場へ波及する可能性があります。
ここで重要なのは、参加者がリテールか機関投資家かではありません。清算対象となるポジションが、他の資産、負債、デリバティブとどの程度結びついているかです。
2022年の英国LDI危機は、自動ロスカットの失敗例ではありません。当時の市場に、本稿でいう口座単位の自動ロスカットが導入されていたわけではありません。
それでも、証拠金請求と資産売却が市場変動を増幅する経路は明確に現れました。
英国国債の利回り上昇により、レバレッジを用いたLDI戦略には大きな担保需要が発生しました。年金ファンドやLDIファンドは担保を用意するために国債を売却し、その売却が国債価格をさらに押し下げました。価格が下がることで、追加の担保需要が発生し、さらに売却が必要になりました。
LDI危機が示したのは、レバレッジ、同質的なポジション、流動性の薄い市場、短い資金調達期限が重なると、証拠金請求と資産売却が相互に増幅し得るということです。
多数の口座が同じ基準で自動的に処理されれば、同じような増幅経路が、より短い時間で生じる可能性があります。
5自動化の外側に残るインフラ
レバレッジ型の直接清算を24時間提供する場合、ポジション評価とロスカットのシステムだけを24時間動かしても十分ではありません。
市場価格が変化すれば、追加証拠金を計算し、参加者へ請求し、参加者が担保を移動し、清算機関がその資金を受領しなければなりません。
そのためには、取引システムだけでなく、銀行決済、担保管理、カストディ、流動性供給、マージン・オペレーションを含むインフラ全体が動いている必要があります。
市場が開いていても、必要な現金を動かす銀行システムが停止していれば、参加者は追加証拠金を支払えません。保有している資産を担保として利用するための移管や評価ができなければ、十分な資産を持っていても、その場でマージン・コールへ応じることはできません。
全額担保・事前拠出型では、取引開始前に最大損失額が差し入れられているため、取引中の追加的な資金移動への依存を小さくできます。
レバレッジ型では、市場価格の変動に応じた資金と担保の移動が不可欠です。
したがって、24時間取引の実現可能性を決めるのは、取引画面が常時稼働しているかどうかではありません。市場、清算、銀行、担保、流動性の時間が同期しているかどうかです。
FCMを外しても、これらの機能が消えるわけではありません。
直接参加者自身、清算機関、決済銀行、カストディアン、流動性プロバイダーなど、別の主体が引き受けることになります。
仲介者を外すことは、必要な機能をなくすことではありません。それまで一つの仲介者がまとめて担っていた機能を、別の主体へ再配分することです。
6レバレッジ型の直接清算に何が必要か
レバレッジ型のダイレクト・クリアリングが成立するかどうかは、参加者がリテールか機関投資家かという属性だけでは決まりません。
少なくとも、次の条件を検討する必要があります。
(1)担保不足が大きくなる前に、十分な頻度でポジションを評価できる。
(2)ストレス時にも、ポジションを実際に処分できるだけの市場流動性がある。
(3)価格ギャップによって担保を超える損失が生じた場合に、最初にその不足を負担する主体が明確である。
(4)その主体も履行できなかった場合に備え、清算機関のデフォルト管理と損失配分のルールが整備されている。
(5)清算対象となるポジションと、参加者が保有する他の資産、負債、デリバティブとの関係を把握できる。
(6)取引時間中に、必要な資金と担保を実際に移動できる。
全額担保・事前拠出型では、これらの問題の一部を、最大損失額を取引開始前に差し入れることで回避できますが、レバレッジ型では、全額担保型では事前に処理できた時間差、流動性リスク、信用リスクが再び現れます。
自動ロスカットは、レバレッジ型の直接清算を支える重要な手段です。しかし、それが代替できるのは、担保不足が拡大する前にポジションを縮小する機能に限られます。
約定できなかった場合の損失、市場全体への影響、資金と担保の移動、デフォルト後の処理まで含めれば、FCMを外した後にも、別の主体が担わなければならない機能が残ります。
レバレッジ型ダイレクト・クリアリングの実現可能性は、自動ロスカットを導入できるかどうかだけでは決まりません。
その外側に残る機能と損失を、制度として誰が引き受けるのか。そこまで明確にできるかどうかが、今後の検討課題になると思います。
注記
本稿は、CFTCによるリテール参加者のダイレクト・クリアリングに関する意見募集と、FIAおよびISDAの意見書をもとに、全額担保・事前拠出型とレバレッジ型の違いを整理したものです。
業界団体の意見書は、それぞれの団体が当局に対して行った政策上の主張を示す一次資料です。その主張が客観的な事実として確定したことや、最終的な規則に採用されたことを意味するものではありません。
英国LDI危機は、自動ロスカットが原因となった事例ではありません。本稿では、証拠金請求と資産売却が市場変動を増幅する経路を示した類似例として参照しています。
- CFTC「リテール参加者によるデリバティブのダイレクト・クリアリングに関する意見募集」(RFC121725・2025-12-18・全5頁)— https://www.cftc.gov/media/12861/DerivativesRetailInvestors_RFC121725/download
- ISDA「予測市場 NPRM への意見書」(2026-07-27・全6頁)— https://www.isda.org/a/7W0iE/ISDA-Comment-Letter-on-CFTC-Prediction-Mkts-NPR-072726.pdf / 自動ロスカット・24時間取引の記述は "Direct Clearing, 24/7 Trading, and Auto-Liquidation" 節(原文 pp.4-5)
- FIA「同意見募集への回答」(Retail DCO Letter・2026-02-24・全12頁)— https://www.fia.org/sites/default/files/2026-02/FIA%20Response%20to%20CFTC%20on%20Direct%20Clearing%20of%20Derivatives%20by%20Retail%20Investors.pdf
- FIA「予測市場 NPRM への意見書」(2026-07-27・全13頁)— https://www.fia.org/sites/default/files/2026-07/FIA%20-%20Response%20to%20CFTC%20NPRM%20on%20Prediction%20Markets%207.27.26.pdf
- Bank of England, "An anatomy of the 2022 gilt market crisis"(Staff Working Paper・2023)— https://www.bankofengland.co.uk/working-paper/2023/an-anatomy-of-the-2022-gilt-market-crisis / 担保請求と強制売却の悪循環・流動性の枯れた市場での強制デレバレッジの記述
- 初版『デリバティブ・クリアリングのすべて』第7章第5節(節内番号 5.2・5.4)
初出: 2026年8月2日 / © 2026 柳沢 俊
本稿は『デリバティブ・クリアリングのすべて』第7章 5「ダイレクト・クリアリングモデル:仲介者なき清算への挑戦と限界」 の続きにあたります。 → 書籍について
第2版に向けて検討中の論点 → クリアリングの章立てへ
本稿に記載する内容は筆者個人の見解であり、筆者が所属する組織・団体の見解を示すものではありません。